「3人のレンガ職人」
旅をしながら世界の風景を写真におさめるカメラマンが、ある町外れで疲れた顔をしてレンガを積み上げている男に出会いました。
とても疲れているためか、ときおり休憩しながら働いているその男に尋ねました。
「こんにちは。とても大変そうですね。こちらで何をしているのですか?」
疲れきった顔をした男は、手を止めて答えました。
「見れば分かるだろう。レンガを積み上げているんだ。もう何ヶ月もやっている。真夏の暑い日も、雨が降る日もね。きょうみたいな冬の寒い日は手がかじかんでやってられないよ」
「とても辛そうなのにどうしてこの仕事を続けているのですか?」
やれやれという顔で答えました。
「ボスからの命令だよ。逆らえないんだ。昔から世話になってるからね。さあそろそろ仕事に戻るよ」
「ボスの方も喜んでいるでしょうね。頑張ってくださいね」といって別れました。
しばらくすると、またひとり、レンガを積み上げている男に出会いました。
しかし、その男は、先ほどの男と違って疲れた顔をしていません。
一生懸命働いているその男に尋ねました。
「こんにちは。こちらで何をしているのですか?」
男はレンガを積み上げながら答えました。
「大きな塀を作っているんだ。なんでもここは教会ができるらしい。おれの担当は、ぐるっと囲む塀の一部だけだよ。一部といっても正門の近くだからね、ただの塀じゃない。とても重要な仕事さ。でも毎日何時間も休憩なしに働くのは大変だよ」
「それは大変そうですね。お体を大切に」と、いたわりの言葉が口をつきました。
男は、いっときも手を休ませずにレンガを積みながら答えました。
「休んでなんかいられないさ。家族を養うためにね。こんど3人目の子供が生まれるんだ。家内のほうが大変な時期だからね。おれが大変なんて言ったらバチが当たるよ」
「お子さんが生まれるんですね。それは励みになりますね」といって別れました。
ほどなくすると、また別の男がいきいきとレンガを積み上げていました。
くっきりと日焼けした身体から、もう長いことこの仕事をしているように見えるにも関わらず、楽しそうに働くその男に尋ねました。
「こんにちは。こちらで何をしているのですか?」
男はこちらを向いて、愛想よく答えます。
「わたしたちは歴史に残る偉大な大聖堂を建てているのです。もう1年以上になりますが、完成はまだまだ先です」
「それは大変そうですね」
かぶりをふって男は答えました。
「とんでもない!大聖堂が完成すれば、たくさんのひとが各地から尋ねてきて祝福を受け、悲しみを払います。大変な日もありますが、それを思えば辛くはありません。素晴らしい施設ですからね、みんなが喜ぶと思いますよ!」
旅をしていていろんな風景を写真におさめているカメラマンでしたが、雪山に登ったり、戦地に赴いたりといった過酷な現場のことが脳裏をよぎりました。
その男にお礼を言って、ふたたび元気に歩きはじめました。
「3人のレンガ職人 (Three Bricklayers) 」より